「なあ、シロー。もう少しゆっくり歩いてくれないか?」

「馬鹿野郎。俺の時、すたすた先に行ってたのは何処のどいつだ?」

「シローのときは一つだろ。僕は二つなんだぜ?」

「ふん、甘えるな。イカサマ博打は本来なら縛り首なんだぞ、感謝して欲しいくらいだ」

「はぁ、シローは男の子には冷たいね」

「それ、お前にだけは言われたくないぞ」

プラハ城を出て南に進み、ぺトシーンの丘に登りながら、汗水たらしながらもどこか朗らかなジュリオの文句を、俺はぴしゃりとはねつけ続けた。
足取りは軽い、なにせ俺の荷物は小さなバックが二つだけ。既に日もとっぷりと暮れた冬の夜空の下、俺たちは城の南に広がるベトシーンの丘を登る。無論、二つの重い鞄がジュリオの両手に下げらている事は言うまでもなかった。





しんちゅうのてんさい
「発条仕掛けの貴人」 −Brandoll 2− Fate/In Britain外伝-5 後編
Coppelia





「ほう、見えてきたぞ」

足取りも軽く丘を登る俺達に、先頭を歩いていたカーティスが頭を上げて頂辺りを軽く顎で指し示した。視線を移すと、そこには暗い夜空を照らす月を背景に、木々に囲まれた瀟洒なお城が建っていた。

「ヴァヴィジネッツ城。我が家師の館だ」

誇らしげにそう言うと、カーティスは更に歩みを速める。後もう少しだ、俺はへらへらと泣き言を垂れ流すジュリオを励まし、カーティスの後を追うべく歩みを速める事にした。

「カーティス・ブランドール。ただいま家師へのご挨拶の為、まかりこしました」

開け放たれた門を潜り、ノックをするまでもなく、まるで待っていたかのように開かれた玄関に入るなり、カーティスは高らかに口上を述べる。

「ひゅぅ……」

と、ジュリオが嬉しげに口笛を鳴らした。
無人の玄関ホールに響く、まるで時報の様なその声に応えて、ホール両脇の扉が開いてメイドさんたちが登場したのだ。
いつもの不機嫌のまま微動だにしないカーティス、嬉しげに眺めるジュリオ、そして少しばかり面食らっている俺の前で、メイドさんたちは昼間のカラクリ時計のような正確さで、流れるように歓迎の列を作ると、俺達に向かって一斉に唱和した。

「いらっしゃいませ、ブランドール様。お待ちしておりました」

続いて一分の狂いもなくメイドさんたちが真っ二つに分かれると、その中央から上品な紫のドレスに身を包んだご婦人が軽やかな足取りで俺達に歩み寄ってきた。どこかおっとりとした、初々しいの少女のようでもあり、成熟した大人のようでもある、年齢不詳の不思議な雰囲気のご婦人だ。

「お久しぶりです、リブシュ師。無沙汰しておりました」

「御機嫌ようカーティス君。本当に年に一度しか来ないんだから」

「まだまだ修行中の身、なかなか時間が取れません」

にこやかなご婦人に、いつもどおりの仏頂面で応対するカーティス。だが、見かけに関わらずかなり緊張しているようだ、まるで腫れものにでも触るように慎重に婦人の手を取ってそっと口付けしている。微かに額に汗さえ浮かんでいる。やっぱり、お師匠様ってのは怖いんだな。

「時間は作るものですよ」

そんなカーティスに軽やかに微笑んでいたご婦人だったが、ふいに視線がこちらを向いた。

「お友達かしら? 紹介してくれない?」

「これは失礼いたしました。ご紹介します、今回の同行者、ジュリオ・エルヴィーノと士郎・衛宮です。我が家師リブシュ・ヴァヴィジネッツ伯爵夫人だ。ご挨拶するように」

「はじめまして、ジュリオ・エルヴィーノと申します」

即座にジュリオが前に出た。そのまま婦人の前に両手の荷物を置き、見事な容儀で一礼すると手を取って唇を沿わす。

「あら? イライザの新しい身体ね?」

が、そんなジュリオの礼を余所に、婦人は興味深げに屈むと、軽くかばんの一つに指を触れた。

「お待ちください、家師!」

「――“開けエクストラクション”」

慌てて止めに入るカーティス。だが、そんな声に一瞬も躊躇することなく婦人は展開の呪を紡ぐ。

―― 発!――

途端、鞄がはじけた。
二つに四つに八つに分かれる鞄から、次々と飛び出し撒き散らされる歯車や発条の塊。ほぼ同時にまるで待っていたかのように周りに立ち並んでいたメイドさん達も一斉に散開する。

「あらあら……」

「あらあらではありません。私は止めたはずです!」

「でも、いつも鞄に変えて運んでくるでしょ?」

「二つありました。開けるのは構いませんが、どちらか聞いた上でお願いしたい!」

頭を抱えて、唸り声のような声音で文句を言うカーティスと、困った顔で先に言ってくれなきゃと膨れているリブシュさん。そしてその二人を余所にてきぱき飛び散った部品を集め、整理し並べていくメイドさん達。俺とジュリオはそんな様子をただ呆然と眺めていた。

「いつも申し上げているように、人の話は最後まで聞いていただきたい」

珍しくも感情を表しリブシュさんに詰め寄るカーティス。と、そこに整理を終えたメイドさんがつつと歩み寄ってきた。

「カーティス様、整理が終りました」

「ほらほら、カーティス君。後片付けはちゃんとしなきゃ」

「誰が散らかしたのですか!」

ぶつぶつと言いながらも、カーティスは整理された部品を呪ひとつで又一つの鞄に戻して行く。

「えっと、士郎衛宮くんだったかしら?」

「はい、衛宮士郎です。どうぞよろしくお願いします」

そんなカーティスの様子にまったく頓着することなく、リブシュは俺の前に進み出るとにっこりと微笑んでくれた。慌てて挨拶を返す俺に、良いから良いからと手を振ってくれたのだが、既に視線はカーティスに戻っていた。

「カーティス君。イライザの身体はまだ?」

「今、お持ちするところです」

憮然としたカーティスの応え。なんか、凄くころころと視点の変わる人だなぁ。ふと、藤ねえを思い出した。このつかみ所のなさなんて結構似てるかも。

「それでは、改めて。リブシュ師、イライザの次期素体をご覧に入れます」

こほんと一つ咳払いをし、そっと手を伸ばしかけたリブシュさんをひと睨みして制してから、カーティスはステッキの先をこつんと鞄に触れさせた。

「“開けエクストラクション”」

昼間と同様に、鞄はパタパタと開き、伸び、回り、裏返り始めた。
次々と組みあがり、立ち上がる人型。だが、さっきとは少しばかり様子が違う。なんか柔らかいような……

「ふむ……」

「へぇ……」

カーティスの自慢げな鼻音と、ジュリオの賞賛の口笛をBGMに組みあがったその姿は、先程の真鍮の筐体とは全く違う姿だった。
つなぎ目一つない滑らかな白磁の肌、腰まで伸びた髪は焦げ茶で大きく見開かれた瞳は藍色。それは、丁度今のイライザちゃんより少しだけ女性らしい曲線に包まれた、一糸纏わぬ少女の姿だった。

「うわぁ!」

一瞬気を飲まれかけた俺だったが、はたと気付いて大急ぎでその少女に上着を被せた。拙い、いくらなんでもすっぽんぽんは拙いって。

「なにをしておるのだ、士郎・衛宮」

「服くらい着せろ、女の子だぞ」

「しかし、あくまで素体であって……」

「イライザちゃんそっくりなんだろ? 知ったら怒るぞ」

「ふむ。だが、いわばこれは医者に身体を見せるようなものなのであって……」

「はいはい、そこまで」

勿体無いなぁというジュリオを余所に、必死でカーティスを説得する俺に助け舟が入った。
リブシュさんだ。とことこと俺たちの前まで進んでくると、ひとつこつんとカーティスの頭を叩き、メイド達に人形の服の支度を命じた。

「リブシュ師、それは余り意味が……」

「衛宮君の言うとおりです。女の子を裸なんていけません」

「しかし人形です」

「カーティス君。前にも言いましたね。オリンピアはもうただの自動人形オート・マタの域を脱しています。何か見目良い服を用意しましょうね」

ほんとに頑固なんだから、とリブシュさんは人形の肩に手を添えて連れて行こうとする。
だが、人形はびくとも動かない。リブシュさんだけでなくメイドさん達まで集まって、押そうが引こうが一向に動かず、オリンピアと呼ばれた人形は、イライザちゃんそっくりの容姿で無表情のまま小首をかしげてカーティスを見ているだけだ。

「……創り主にそっくりの頑固者ですね。カーティス君」

「わかりました」

カーティスは溜息をつくように、肩をすくめると人形に正対して命じた。

「オリンピア。服を貰ってから、戻りなさいゴー バック

それを聞いて、人形は漸くこくんと頷いた。

「カシコマリマシタ。ゴメイレイニシタガイマス」

そのまま人形はメイドさんに連れられて、用意された服を着るために奥へと下がっていく。

「それじゃあ、皆さんはお食事に、用意して待っていたんですよ」

それを合図に、俺たちもリブシュさんの先導で夕食に招かれる事になった。




「オリンピアちゃんって言うんだね」

「ん? ああ、言っていなかったな。そうだ、あの人形の制御機構しんぞうはオリンピア。私が始めて作った自動人形だ」

夕食を終え、俺がちょっと気になる料理のレシピをいくつかメイドさんに貰った頃、ジュリオの奴が切り出した。

中身しんぞうだけって事はオリンピアちゃんの本体ってのもあるのか?」

俺もついでに疑問に思っていた事を聞いてみた。あの人形が来年のイライザちゃんの身体だというのはわかる。
ただ、イライザちゃんは“精神”を移す形で自動人形オート・マタの身体を利用していたはずだ。だが、今あの身体にはいわば“精神”に擬するものが入っている。多分、テストパイロットみたいなもので、イライザちゃん同様のやり方で入っていると思うんだが、それならオリンピア自体の身体ってのもあると思うんだが。

「ふむ、それだが……」

が、カーティスが珍しく言葉に詰っている。

「オリンピアちゃんはね。今はきちんとした身体はないのよ」

そんなカーティスにちらりと半眼の視線を走らせ、カーティスに代わってリブシュさんが話し始めた。

「正直言うと本当にお人形だったわ。オリンピアの最初の身体は」

カーティス君はどうも不器用だもんね、と憮然とするカーティスに笑いかけながらリブシュさんは話を続ける。
凝りに凝った趣向で作りすぎ、出来の良い人形に過ぎなかったと言うオリンピアだったが、その制御機構しんぞうだけは違っていた。やっぱり凝りに凝っていて何処を如何繋いだかわからないような出来ではあったが、それでも間違いなく自動人形オート・マタとしての擬似生命がそこに宿っていたと言う。

「そんなわけで身体は直ぐ壊れちゃったんだけどね、ちょうどその頃だったかな? カーティス君の妹が倒れて」

先祖伝来の技術と、リブシュさんエイジマフ老師の協力で、最初のイライザちゃんを完成させたという。

「だが、イライザを入れるにはいまだ熟成が足りなかった。イライザの精神を移す以上、完全な自動人形オート・マタには出来ない、かと言ってすり合わせの出来ていない人形などにイライザの精神を移しても混乱してイライザの心を破壊しかねない」

そこで身体を失ったオリンピアの制御機構しんぞうを一時的に組み込む形で、調整をし完成させたのだという。

「イライザとオリンピアの相性は思いのほか良かった。以後は、完成と同時にはずして、新たに組み上げるイライザの素体の制御装置しんぞうとして使っていったのだ」

「――でもね」

と、そこまでカーティスが説明を続けた所で、リブシュさんが脇から言葉をさらって行った。

「数年ほど前からオリンピアはオリンピアとしての個性を持ち始めていたわ。自動人形オート・マタは歳を経ると共に変化し蓄積され成長していくもの。もうそろそろオリンピアとして立つ頃なのよ」

でしょ? とリブシュさんはカーティスに視線を送る。

「しかし、イライザの素体の調整には……」

「なに言ってるんです。もうイライザちゃんは、自分で身体の調整くらい出来ますよ。簡単な制御装置つくりものだけで十分。本当にもう、腰が重いんだから」

弱々しい言訳をぴしゃりと一言で抑えられたカーティスは、何処となく小さく肩を窄めている。唯我独尊なカーティスには非常に珍しい姿だ。

「そうだなぁ……」

俺もリブシュさんの言い分が正しいように思えた。ジュリオのイカサマを阻止したあの腕、カーティスの言葉が掛かるまで、頑固に身を硬くしていた姿。どちらにも意思の存在を感じた。いつまでも他人の身体を移ろいゆくのは、やはり可哀相だ。

「まあ、それは良いとして。当のオリンピアちゃんは?」

その時、片眉を軽く顰めたジュリオが周囲を見渡しながら口を開いた。

「そういえば……」

「ふむ、戻れと言っておいたのだが」

「遅いですね。着替えならとっくに終っているはずなのに」

首を傾げる俺たちに応えるべく、リブシュさんはメイドさんを呼び寄せた。

「……戻った?」

「はい、オリンピアはカーティス様のお言葉どおり戻りました」

「いや、だけど、戻ってないぞ?」

「いいえ、戻りました。着替えを終え、戻ると言ってそのまま外に」

「……外?」

人好きのする笑みを湛えたまま、メイドさんはおかしな事をきっぱりはっきり言う。

「ちょっと待て、おかしいじゃないかなんで止めなかったんだ!?」

俺は思わず立ち上がった。どう考えてもおかしい。理由はわからないがオリンピアちゃんが外に向かったってのはまだわかる。だが、このメイドさんが止めることなく外へ送り出したってのは、如何考えてもわからない。

「しかしながらお客様。オリンピアは主より“戻れゴー バック”と命じられておりましたから」

だが、それでもメイドさんの表情は変わらない。ここで、俺は漸く違和感を覚えた。慌てて周囲を見渡すと、どこか良く似たメイドさんたち、その誰もが同じような表情を浮かべている。そういえば、さっきもまるで機械のように正確な動きだった。機械のように……

「もしかして……自動人形オート・マタ?」

「あら、気が付いてなかったの? あなた方以外皆そうよ」

俺の声にまあ驚いたとリブシュさんの声。どうやらカーティスも知っていたようだ。うわぁ、ちっとも気が付かなかった……

「ジュリオ、お前は驚かないのか?」

俺は隣で、やはり平然としているジュリオに聞いてみた。俺だけわからなかったってなんか悔しいぞ。

「ああ、僕の誘いに誰も乗らなかったからね、おかしいとは思ってたんだ」

しれっと応えるジュリオ。こいつは……呆れるべきか、感嘆すべきか判断に迷うな。

自動人形オート・マタが皆、不審に思わないなんて……カーティス君? 貴方なんて命じたの?」

「いや、ですから戻れゴー バックと……」

「何処に?……」

「……」

一瞬の沈黙、戻れと言ったのにここには戻ってきて居ない。じゃあ他に戻るところは? 顔を見合わせる俺たちは、皆一斉にとある地名を思い浮かべていた。

「まさか……倫敦?」

「ふむ、そう受け取られても仕方のない命令であったかもしれん」

「はい、わたくし共もそう判断いたしました」

カーティスの言葉に、ぺこりと一斉にお辞儀するメイドさん達。

「となると、オリンピアがそう判断してもあながち間違いでは無いな」

納得したようにふむふむ成程と頷いているカーティス。……って、落ち着いてる場合かよ!

「連れ戻さなきゃ。拙いだろ? 夜の街中に自動人形オート・マタってのは」

「そうだね、あの様子じゃ不審に思われちまう」

「ふむ、確かに。オリンピアは生活防水機能しかない。ドーバー海峡をこせん」

いや、そこは心配するとこじゃないと思うぞ。

「ともかくだ。追いかけよう」

俺は立ち上がり皆を見渡した。
色々言いたい事もあるだろうが、今はまずオリンピアちゃんを見つけ出して連れ戻さないと。




取敢えず見つけ出す事が先決。準備をして後に続くと言うカーティスとリブシュさんを置いて。まず俺とジュリオが先に城を後にした。

「で、シロー。どっから行く?」

「まず街に戻ってみよう」

もうかなり遅い時間だ。繁華街ってわけではないから人通りは少ないものの、オリンピアちゃんはドレス姿だと言う。そんな格好であの容姿だ、かなり目立つ。道々聞き込みながら進めば何か手がかりを得られるだろう。


「そっちはどうだった?」

「ああ、ナンパしようとして、のされた奴が二人ほどいた」

「大丈夫か?」

「心配要らないよシロー、気付かれちゃいない。完全にびびってたけどね」

ぺトシーンの丘を下ったオリンピアちゃんの足取りは、何故かプラハ城を裏口から正面に抜け、そのまま橋を渡って旧ユダヤ人街ゲットーに向かっているようだった。

「どうする?」

「そうだな、旧ユダヤ人街ゲットーの老師のとこに行ってみよう」

情報だけでなく、何か協力を頼めるかもしれない。俺たちはユダヤ人墓地に向かう事にした。

「なんじゃい、赤いのと黒いのか。何度も何度もご苦労じゃな」

ユダヤ人墓地、老師の家に入口で、俺たちは頭をかいて首をかしげている老師その人に迎えられた。

「えっと、どうしたんですか?」

「それはこっちの科白じゃい。オリンピアの奴どうしたんじゃ?」

なんでも入れてくれと入口でうろうろしていたので入れてみたら、ただ家に入って奥まで進み、そのままくるりと反転して出て行ったと言う。

「なんなんだろう?」

「だから、こっちが聞きたいと言っておるんじゃい」

全くわけがわからないと首を捻っているところに、俺たちが来たのだと言う。
そりゃ確かに、本当に一体なにをしているんだ?

「で、老師。どっちに向かったかわかります?」

「ふむ、カレル橋のほうへ向かって行ったな」

カレル橋? また川を渡るのか? 俺はジュリオと顔を見合わせた。だが、そうとわかれば……

「俺は向こう側に先回りする。ジュリオはこっちから追いかけてくれ」

「了解、シローも気をつけてな」

両側から挟み撃ちだ。俺たちは二手の分かれてカレル橋に向かって駆け出した。




「あら、衛宮君。貴方がこちらに来たのね」

カレル橋の向こう側に着いた時、そこには既にリブシュさんが待っていた。

「リブシュさん、どうしてここへ?」

「イザークから連絡が入ったんですよ。彼を放って駆け出したでしょ? 駄目ですよちゃんと挨拶しなきゃ」

驚く俺は、リブシュさんののんびりとしたお叱りを受けた。でもイザーク? 誰だ?

「エイジマフのことですよ。それより、ほら。オリンピアが来ます」

俺の顔を見てやれやれと肩を竦めたリブシュさんの指差す先は、カレル橋のちょうど中ほど。オリンピアだ。無人の橋を一人とことことこちらに向かって歩いてくる。

「向こうにカーティス君を送って人払いを掛けました。これで人目を心配する必要はありませんから」

確かに、向こう側でこっそりとオリンピアの後をつけているのはカーティスとジュリオだ。でも、それなら……

「橋を渡る時、カーティスにオリンピアちゃんを止めさせたら良かったんじゃないか?」

「まだ、その時は人が居たんです。神秘は隠匿しなきゃ……」

「いや、そうじゃなくて。オリンピアちゃんは、カーティスの命令なら素直に聞くんじゃないかって思うんだが」

屋敷での事を考えると、他の人の命令ならともかく、カーティスになら従ったんじゃないだろうか?

「―― あ……」

一瞬すとんとリブシュさんの顔から表情が抜け落ちた。直ぐに表情は戻ったが、微かに微笑みながら視線は泳いだままだ。成程、すっかり忘れてたんだな。っていうか、カーティスも気が付かなかったのか? この二人もよく似た師弟だなぁ。

「とにかく、今からでも遅くない。両脇から囲んでカーティスに命じさせましょう」

「そ、そうね。それで万事解決ね」

そう、これで万事解決するはずだった。

「―――― CARPE DIEM疾く 行け.」

向こう側のカーティスがなにを思ったか機像ゴーレムの一つを起動するまでは。

―― 重……――

カーティスの言葉とともに、橋の欄干に立っていた銅像のうち一つが動き出した。あれだ、カーティスの先代が造ったってやつだ。多分、こいつで取り押さえるつもりなのだろうが……

「ニンムノボウガイヲカクニン。ハイジョニウツリマス」

これが呼び水となってしまった。後少しでこちら側にと言う所にいたオリンピアちゃんはくるりと振り返ると、何事かぼそぼそと唱えだした。

「――――COGITO,ERGO SUM目覚めよ.」

―― 轟……――

その言葉が途切れると同時に、川面が揺れた。いや、橋全体の震動が川に伝わったのだ。橋の欄干、三十体にも及ぶ彫像。その悉くがオリンピアちゃんの言葉に反応し起動したのだ。

「……さすがイライザちゃん……」

前に、カーティスがイライザは天才だって言ってたけど……確かに、移した回路とオリンピアちゃんが複写した術式だけでここまでやっちまうってのは、本当に感心するぞ……

―― 怒涛!――

と、感心している場合じゃなかった。
カーティスの起動した一体に、無造作に突進していく無数の機像ゴーレム。はっきり言って制御なんて全くなっていないが、何しろ数が違う。カーティスが起動したなんとかロヨラの像は、瞬く間に叩き潰されていく。

「――むっ!」

「カーティス避けろって!」

だってのに……その足元に泰然と立っているカーティス。もうもうと立ち込める煙の中に、たちまちのうちに飲まれていく。

「ジュリオ!」

「わかってる!」

だが、こちら側からではどうしようもない。俺はカーティスをジュリオに任せ、引き返したオリンピアちゃんを追うべく駆け出した。

―― 吻!――

「――どわっ!」

が、そう簡単に追いかけさせてはくれないようだ。俺の前には無造作に暴れまわる彫像の一群。何とか避けて追いかけようとしても、横殴り縦殴りと出鱈目に振り回される腕を避けて逃げ回るのが精一杯になっていった。
それでも俺は、すたすたと橋を引き返すオリンピアの背中を見据え、必死で青銅の腕を掻い潜る。

「くそっ! これじゃ切りがない」

暴れまわる彫像から一歩身を引き俺は腹を決めた。ようは一直線の道さえつければ良い。それなら少しばかり乱暴だが手が無いわけじゃない。
俺は、両手に弓と魔剣を投影しようとした……

「――投影……」

ところで、急に彫像の動きが鈍くなっていく。中にはよろよろと台座に戻る彫像もある。

「――SUMU PRIMUS INTER PARES我は 数多なる同胞の 始りなれば……」

後から響く呟きに振り返ると、リブシュさんが両手を前に出し、傀儡を操る人形師のように指を小刻みに動かしながら、彫像達を睨みつけている。

「衛宮君、ここは私が抑えます」

「あ、あの……」

「壊しすぎたら後が面倒よ」

俺がなにをしようとしてたのか、それには触れずリブシュさんは軽くウィンクすると、俺を先へと促す。

「わかりました」

俺は一つだけ頭を下げて、リブシュさんの好意に甘える事にした。

「ジュリオ、カーティスは?」

よろよろと元の台座に戻ろうとする彫像を避けつつ橋を駆ける抜ける途中、俺は煙から這い出してきたジュリオに声をかけた。

「無傷、ちょっと頭を打ったみたいで意識はないけどね」

ちらりと走らせた視線の先に、カーティスを肩に担いだジュリオの姿が映る。無事でよかった。それに、これでオリンピアちゃんの事も何とかできそうだ。

「じゃ一緒に来てくれ。オリンピアちゃんを止めるぞ」

「って、僕が担ぐのかい?」

「イカサマの代償だ!」

俺はそれだけ叫ぶと、追跡を続行した。なんかえらい大事になってきたけど、それでもまずはオリンピアちゃんを止めないと。




「シロー、こっちかい?」

「ああ、この広場に入るところを見た」

たどり着いた先は旧市内広場。俺たちはオリンピアちゃんの後姿を追って、ここに辿り着いたのだ。
俺の横には、カーティスを軽々と担いだジュリオが既に追いついて来ていた。どうやら自分に強化の呪を施したらしい。後のキックバックが結構きついとは聞くが、それでも便利なものだ。同じ強化でも俺は武器系専門、こんな便利な芸当は出来ない。ちょっと羨ましいな。

―― 告!――

「うわぁ!」

と、いきなり響き渡る鐘の音。驚いた、吃驚した、心臓が止まるかと思った。慌てて見渡すと、目の前の市役所の時計塔が十一時の時報を告げていた。なんだ、脅かすなよ……

「……む?」

だが、それでもこの鐘の音には薬効があったようだ。ジュリオの肩で気を失っていたカーティス、これで眼を覚ましたようだ。

「ふむ、朝か?」

「……旦那、この静かな月空見てよくそんな科白が出るね?」

「しかしだな……」

肩からカーティスを下ろしながら呆れたように言うジュリオに、カーティスはそれでも憮然とした面持ちで時計を指差した。

「あの時計の時報は九時から二十一時までと決まっている。それが十一の時報を刻むと言う事は今は午前十一時と言う事だ」

ああ、成程そういうことか……っ! ちょっと待て。
俺はジュリオと顔を見合わせた。じゃなんで今この時計は時報を告げたんだ?
音がするほどの勢いで首を回し、視線を正面に戻すと、そこでは時報を終えた天文時計がカタカタとカラクリを稼動させ始めていた。そして昼間同様窓から順番と顔を出す十二使徒。
だが、なぜか今はその窓が開き、人形達は腰の辺りから蜘蛛のような足を伸ばして、上半身だけの身体を台座から引き抜くと、そのまま文字盤を伝い次々と地上に向かって降り始めた。

「おお、素晴らしい。五世紀の間、誰も起動できなかったハヌシュの自動機械オート・マタが……」

「そんなこと言ってる場合か!」

俺は怒鳴りながらも改めて周囲を見渡した。
居た。今までじっと動かなかったせいで、背景に溶け込んでいたのだろう。時計塔の下からとことことヴァーツラフ広場の方角へ消えていくオリンピアちゃんの姿。

「ヴァーツラフ広場だ。あっちに向かった」

素早く二人に目配せすると、漸く状況が飲み込めたのだろうか、カーティスが立ち上がり、迫り来る十二体の人形を睨みつけながら徐に口を開いた。

「良かろう、自動人形オート・マタならわたしの専門、ここは私に……」

「ああ、旦那。ちょっと待ってくれ。旦那じゃなきゃオリンピアちゃんは止められないんだろ?」

と、それをジュリオが一歩前に出て押し止める。

「幸い、呪を掛けたばかりだからね、あの十二人の相手は僕が勤めるよ」

「待て、残るなら俺が残る」

だがそう言われて、はいそうですかと置いていける訳がない。必要なのはカーティスだ。だったら俺でもジュリオでも構わない。俺も一歩前に出る。
とはいえ、このままじゃ埒が明かないだろう……

「しょうがない、じゃコインで決める。良いな?」

「良いよ、僕は表だ」

「じゃ俺は裏だ」

俺はポケットに忍ばせてあった五十ペンス硬貨を取り出して放り投げた。

―― 発!――

だが、コインは俺の手に落ちることなく空中でジュリオに捕まれた。あ、拙い……

「イカサマはいけないなぁ、シロー」

こんな時だってのに、相変わらず地中海の笑みを浮かべるジュリオの手にあるのは、両面が裏のコイン。畜生勘付いてやがったな……

「というわけで、さあ、とっとと行った行った」

そのままジュリオは雄叫びを上げて十二体の自動人形の中に飛び込んでいく。
右に左に、呪に加速され人の限界を超えた動きを見せるジュリオ。ああ、くそ。良い格好しやがって。

「士郎・衛宮」

「わかってる、行こうカーティス」

こうなっては先に進むしかない。陽気に暴れまわるジュリオを一つ恨めしげに睨みつけ、俺はカーティスとともにヴァーツラフ広場に向かって駆け出した。





「士郎・衛宮。少し待ちたまえ」

「なんだ、カーティス。今は急がなきゃ」

そのまま、後ろ髪を引かれる思いでオリンピアちゃんを追いかけ。旧市内広場出て、カレル大学の脇をすり抜けようとしたところで、俺はカーティスに止められた。

「慌てるな。オリンピアの行動だが、おかしいと思わんか?」

「おかしいって、なにがさ?」

「ふむ、道筋だ。プラハ城を逆行、老師の家を素通り、更にカレル橋を渡った上で引き返す。そして今、ヴァーツラフ広場に向かう。いかにも妙な行為だ」

そりゃ、確かに……倫敦に戻るのになんでそんな道筋を……

「―― あ」

「ふむ、私もそう思う」

今気が付いた、オリンピアちゃんが屋敷を出てからのコースは、俺たちがプラハに着いてから、リブシュさんの屋敷に向かったコースの正確な逆行だ。

「となると、目的地は……」

「中央駅であろうな。そこで列車に乗るつもりでなのだろう」

「じゃあ駅に急がなきゃ」

「まあ、待て」

「なんでさ!?」

そこまで聞いて駆け出そうとした俺を、またもカーティスが押し止めた。

「オリンピアが起動した機像ゴーレム自動人形オート・マタだが……あれはオリンピアが見たものだ。このコースを辿るのは些か問題があろう」

「ああ、そうか。博物館前の像か」

この街ではじめて見た機像ゴーレム、どでかいヴァーツラフ王の騎馬像。確かにあれまで起動されていたら、飛んで火に入る夏の虫だ。

「よし、じゃあ裏から駅に向かおう」

「うむ、こちらの火薬搭側から回れば見つかるまい」

これで漸く先手が取れる。俺たちはこっそり急いで、プラハの中央駅に裏口からお邪魔する事にした。




「ビンゴだな」

中央協会カルロヌムが出張っていたのは些か予想外だったが……」

裏口から駅に入った俺たちは、少しばかり焦りながら外を伺っていた。
案の定、オリンピアちゃんはヴァーツラフ像を起動していたのだが、その場所はプラハ国立博物館の真正面。つまり、ここの魔術協会カルロヌムの目の前で神秘を顕してしまったのだ。
お蔭で今、博物館前のヴァーツラフ広場は無音の大騒ぎだ。慌てて掛けのだろう、人払いの結界で一般人こそ締め出されているが、代わりに強面の魔術師たちが眦吊り上げて闊歩している。ここで下手に見つかったらオリンピアちゃんは分解されちまう。

「ともかくだ、俺たちが歩いた道筋を探して行こう」

そんなわけで、俺たちはまたもこっそりひっそりと、急いで駅の待合室からホームに掛けてを探し回った。
幸い、国立博物館の結界の影響か、こっちにも人の気配は無い。おかげで妙に取り繕う必要のなくなった俺たちは、二手に分かれて探す事にした。

「くそ、俺たちが通った道にいるんじゃなかったのか?……」

俺は、出来るだけひっそりと駆け回りながら考えた。列車から降りて全てのルートは調べた。今は客車は無いが、車庫まで行って俺たちが乗った車番のコンパートメントも覘いた。くそ、ええと、俺たちはずっと一緒に……

「――あ、鞄」

と、ここで漸く思い出した。手荷物はともかく、オリンピアちゃんであったあのでかい鞄は、確かコンパートメントに運び込まず貨物に預けていたんだった。

「貨物か……」

俺は踵を返し、再び車庫に向かった。列車は確か、貨車を一つ貨物用に繋いでいたはずだ。


「……」

漸く見つけ出した貨車。その扉を開けて、俺は暫し言葉を失ってしまった。
必死で四角くなろうと手をばたつかせているイライザちゃん、いやオリンピアちゃん。何か不思議な踊りを踊っているようにも見える……

「……なにしてるんだ?」

「……ショウガイヲハッケン……」

余りの妙な事態に思わず尋ねてしまった俺に、オリンピアちゃんは急に何か気付いたように動きを止めると、じりじりと俺を睨みつけながら迫ってきた。

「ま、待て! 俺は……ほら君を持ってた……イカサマで助けてくれじゃないか!」

迫り来るオリンピアちゃんに、俺は両手を広げて言い繕った。そりゃこの娘を壊せないわけじゃないが、できれば喧嘩なんかしたくない。

「……セイモンヲショウゴウ。マスターノジュウシャ、シロウ・エミヤトニンテイ」

小首をかしげ暫らく聞き耳を立てていたオリンピアちゃんだったが、どうやら味方と判定してくれたようだ。まずはこれで第一関門突破だ。

「さ、帰ろう。君のマスターが待ってる」

「……マスターノメイレイヲスイコウチュウ。タダシ、ゲンザイショウガイハッセイニヨリスイコウハコンナン……」

「どうしたんだ?」

「……ウンパンケイタイヘノイコウキノウニショウガイ、ゲンジョウデハ、カモツトシテノキカンハコンナン……」

どうやら、鞄にもどれなくなってしまったと言うことらしい。そうか、さっきのは鞄に擬態しようとしてたんだな。それが騙せないと悟って障害か……あぶないとこだった。

「マスターに見てもらおう。直れば命令を遂行できるぞ」

「……マスターノショザイハミカクニン」

「俺が知ってる連れてってやる」

「……シロウ・エミヤハイカサマヲシナカッタ。シンヨウシマス」

暫らく俺を見詰めていたオリンピアちゃんは、小さく呟くと俺に手を差し伸べてきた。……さっきのを見られてなくて良かった。
俺はどこか縋るような瞳になったオリンピアを連れ、何処かで探し回っているカーティスを捕まえるべく、車庫を後にした。




「うむぅ……」

「……」

カーティスは駅のホームで動物園の熊になっていた。
ぐるぐるとホームで往復運度を繰り返していたカーティスは、オリンピアちゃんを目に留めると、仏頂面のまま早足で駆け寄ってきた。
そこで俺から事と次第を聞くと、カーティスはそのままオリンピアちゃんを見据え、むむと黙り込んでしまった。

「どうなんだ? カーティス」

無表情ながら、肩を窄めどこか不安そうなオリンピアちゃんを見るに見かね、俺が代わりにカーティスに聞いてみた。

「固着してしまったようだ……」

「どう言う事だ?」

「魔術を行使したろう? あれでイライザの回路とオリンピアの制御機構しんぞうが物理的に固着してしまった。これでは、オリンピアを取りだせん」

「ええと、良くわからないんだが……」

「つまり」

ここで別の声が割って入って来た。

「オリンピアは身体を手に入れたって事ね」

慌てて身構える俺たちに向かって、近づいてくる二つの人影。ひらひらと手を振るたおやかな女性の影と、些かへばった男の影だ。俺たちの肩からふっと力が抜けた。

「リブシュさん、ジュリオ。無事だったんだ」

「まあね、あの後直ぐに伯爵夫人が追いついてきてね」

「起動されただけで、制御されていない人形相手ですからね、そう簡単にやられませんよ」

苦笑するジュリオにえっへんと胸を張るリブシュさん。やっぱりちょっと変わった人だな。

「それよりもカーティス君」

「……なんでしょう。リブシュ師」

「だから言ったでしょ? 早く身体を上げなさいって。で? どうするの?」

「……どうするとは、どのような意味でしょうか?」

「オリンピアよ、このままじゃイライザの身体には使えないでしょ? 無理やり引き剥がす?」

「家師!」

「リブシュさん!」

俺とカーティスが同時に叫んだ。それは、つまりオリンピアちゃんを“殺す”って事だ。

「出来る訳がないわね。第一そんな身体イライザは受け取らないでしょうね」

「無論です」

憮然としたカーティスの応え。そんな反応を、リブシュさんはころころと面白そうに笑いながら、もう一度カーティスを睨みつけた

「じゃ、どうするの?」

成程、つまりリブシュさんは、このまま……

「わかりました。この身体はオリンピアに渡します。次期素体については早急にMk17の作成に入ります。イライザには暫らく待ってもらう事になりますが……」

「私からも言っておくわ。彼女もオリンピアの事は気にかけてたから、きっと喜んでくれるでしょうね」

無表情ながらきょとんとした顔のオリンピアちゃん、いつも通り仏頂面のカーティス。そして、ころころと本当に楽しそうに笑うリブシュさん。えらい騒動だったが、これで何とか収まるところに収まったって事だろう。





「大団円だね、シロー」

「おう、そうだな」

ぽんと疲れた顔で俺の肩を叩くジュリオ。どうしたってんだ? これで全部解決したじゃないか?

「じゃ、シローも来いよ。後片付けだ」

どこか微妙な笑みを浮かべながらジュリオは俺の肩を掴んだまま、すっと後ろに振り向かせる。なんか嫌な笑みだな、例えていうなら、そう、新入りの事情がわからない囚人に古参の囚人が笑いかけるような、そんな意味深で物騒な笑みだ。俺は首をかしげながらも後ろを振り向いた。

「うっ……」

そこには腕組みをしてずらりと並んだ中央協会カルロヌムの面々。眦を吊り上げ、口の端を不機嫌そうに歪めながら俺たちを睨みつけている。

「壊した機像ゴーレム自動人形オート・マタを朝までに修理するって事で、リブシュさんが話をつけてくれたんだ。可愛い女の子の為だ、一緒に頑張ろうな、シロー」

「お、おう……」

俺はカレル橋の惨状と、天文時計の人形達を思い起こして笑顔を引きつらせた。プラハまで来てやる事はいつもと一緒か、こりゃまた徹夜だな。
俺たちのプラハの一日は、自動人形オート・マタを追いかけて、機像ゴーレムを相手に大立ち回りし、最後には俺たち自身が一晩中作業を続ける労働機械ロボットに成り果てて幕を閉じた。
尤もこれはこれで、えらくプラハらしい一日だったと言えるのかもしれないが。

END


しんちゅうのてんさい。今回もまた自動人形の話と相成りました。
なにせプラハは、ゴーレム、オートマタ、ロボットと続く、機械仕掛けの総本山。そこにカーティスが行くのですから、こういう話になってしまうのも止むを得ぬものと……
それはともかく、色気はまったくありませんでしたが、これが士郎くんたちのプラハでの思い出です。
なんと言いましょうか、士郎もカーティスも相変わらずで……
ただ、ちょっとジュリオ君が割を食ってしまったお話でした。

By dain

2004/1/12 初稿


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