そこには一本の剣があった
突き立てられ孤高に屹立する一本の剣があった
ただ、そこに突き立てられるためだけに鍛られた剣
ただ、誰かに引き抜かれるためだけに創られた剣
ただ、ただ、誰かを待ち続ける為だけに作られた剣
いったい誰を待っているのだろう?
おうさまのけん | |
「剣の王」 | −King Aruthoria− 第二話 前編 |
Saber |
遠坂に引き連れられて俺たちはカウンターから奥へ、先ほど食事をした部屋に向かった。
剣を選ぶのに難渋しているセイバーに、適切な助言と援助をする為だ。横で遠坂がクリップボード片手に、さっきのカードの説明書の裏になにやら書き込んでいる。
遠坂……急かす気持ちは分かるが、阿弥陀籤はちょっと違うと思うぞ。
「あれ?」
と、阿弥陀籤が完成したのか、嬉々とした表情で顔を上げた遠坂が素っ頓狂な声を上げた。
「どうしたんだ?」
俺はそんな遠坂の肩越しに室内を伺った。あれ? セイバーが居ない。
俺たちが先ほど食事をした部屋、お客様を通すのでなく、仕事用の休憩室だろう簡単な仕切りで囲われていてテーブルと椅子が置かれているだけの部屋なのだが、セイバーはそこに居なかった。
確かさっきまで、セイバーはここに座ってうんうん唸っていたはず。セイバーが座っていた椅子の脇には、選び倦んでいた剣が立て掛けられたままで置いてある。
「どこいったんだ?」
俺たちは周囲を見回した。カウンターの方から来たのだから表には居ないはずだ……
「ねぇ、ミーナ。あの扉の向こうは?」
そこで奥への扉が半開きになっているのに気がついて、遠坂がミーナさんに尋ねた。
「鍜治場ですけど……なにもありませんよ?」
首を傾げて応えながら、ミーナさんは不思議そうに扉を開けて鍜治場に向かう。
「あ……やだ……」
と、何か入口で固まってしまった。
彼女が立ちふさがる形になって俺たちには奥が見えない。ただ、彼女が両手を口に当て、耳を真っ赤にしているのは後からでも伺える。なんか可愛らしい。
「ちょっと、なに?」
遠坂がそんなミーナさんを押しのけてずかずか中に入る。なにか勿体無いものを感じつつ俺も後に続いた。
「へぇ……」
鍜治場は本当に鍜治場だった。壁の一角には真っ赤に燃える炉、水桶やテーブル、鍛床や回転式の砥石が雑然と置かれている。……どうやら、俺の周囲の女性陣は仕事場の整理整頓と言うものに、なにか特殊なポリシーを持っているらしい。お前ら片付けろよな……。
でだ、
そこにセイバーが居た。
鍜治場の薄明かりの中、扉から漏れる光をまるでスポットライトのように浴び、セイバーが立っていた。どこか、呆けるように奥の一角を見つめている。
俺と遠坂は、顔を見合わせてセイバーの視線の先を追った。
そこには一本の剣があった。
壁にかけられ赤い龍の紋章を帯びた盾を背景に、鍛床に突き立てられた一本の剣があった。
美しい剣だ。実用よりも象徴の意味合いが強いのだろう、青い螺鈿と金の象嵌で飾られた美しい剣だ。
「ねぇ、あれってなに?」
遠坂がミーナさん尋ねる。そんな隠してた変な本見つかったときの士郎みたいな顔しないで、なんてこと言ってる。ば、馬鹿野郎! 失礼なこと言うな! そんなもの隠してないぞ……ごめんなさい嘘つきました。
「……それ……『王様の剣』なんです……」
と、ミーナさんは恥ずかしそうに、蚊の鳴くような声で応えた。
「七年前、わたしが十四の時に鍛って、初めて完成させた魔剣なんです……その、小さい頃みた『王様の剣』ってアニメーションで……私が初めて剣って良いなと思った。原体験なんです」
声がどんどん小さくなる、本当に恥ずかしいのだろう。
「でも、そのままじゃなくて色々装飾とか工夫したりして……いつかどこかの王様が、あの映画のように引き抜いてくれるような……そんな剣にしたくて……うわ、恥ずかしい話ですね。若気の至りってヤツです」
いや、そうでもないぞ。現に王様が呆けたように見つめていらっしゃる。
俺は再び遠坂と顔をあわせた。遠坂も同じ気持ちらしい、納得したような呆れたような苦笑を浮かべている。
鼠のマークで有名な新大陸の会社が作った、そのアニメーション映画『王様の剣』の主人公はアーサー王。
そしてセイバーの真名はアルトリア・ペンドラゴン。かってのアーサー王だ。
つまり事情はどうあれあの剣は、ミーナさんがセイバーの剣を模してセイバーの為に鍛った剣なんだ。
未熟だったとはいえ魔術師が思いを込めて鍛えた魔剣だ、たとえ魔剣としての格はたいした物ではなかろうがそんなことは関係ない。いつか来るだろう王の為に鍛った剣を、セイバーがわからないわけが無い。
「セイバー」
俺はセイバーに声をかけた。自分でも驚くくらい優しい響きだった。
「シロウ……あ、凛、ヴィルヘルミナ……」
はっとしたようにセイバーがこちらを見る。今の今まで、俺たちのことに気が付いていなかったらしい。セイバーらしからぬ迂闊さだ。でもまぁ……結構こういうところあるよなセイバーは。
「気に入ったの? それ?」
遠坂も不敵な笑みでセイバーに問いかける。ああ、あれだな、これは面白がっている笑みだな。まぁこれだけシチュエーションが揃ってたら面白がるのも分かるけど……
でもな遠坂、お前の面白がり方は絶対一般的じゃないぞ。
「あ……ええ、とても……昔、私が持っていた剣に良く似ています……」
あれ?
セイバーは些か歯切れの悪い調子で言った。微妙に暗い、さっきまでの表情には無かった暗さだ。
「じゃあ、それ貰えば? ねぇ、ミーナ。いいでしょ?」
遠坂がミーナさんに尋ねる。ミーナさんはますます小さくなって、格が低いだのセイバーが持つには不足だの呟いていた。が、最後には、不束者ですが……などと意味不明な事を言って頷いた。
「じゃ決まりね。セイバー、それ抜いて」
ああ、やっぱり。
遠坂はここでアーサー王伝説をぶち上げるつもりだ。魔術師も居るしねぇ、などと面白そうな笑みも浮かべている。おいおい、それミーナさんのローブだろ?
が、セイバーは止まってしまった。遠坂に導かれて数歩前に進み、剣の柄に手を伸ばそうとした所で止まってしまった。このまま手を伸ばしてもいいのだろうか? まるでそんな思いでもあるかのように指先が震えている。顔には迷いと苦悶の表情が交差し、唇は血が出るほどに噛締められている。
「セイバー……貴女どうしたの?」
遠坂もセイバーの余りに異常な所作に気がついたのだろう、心配そうに声をかける。
セイバーはその声で決心したのだろうか。静かに手を下ろすと大きく一つ息をつき、寂しげにミーナさんに向かって言った。
「すまないヴィルヘルミナ。私にはまだこの剣を抜く決意は持てない」
「いえ、いいんですよ。たいした剣ではありませんから」
あわてて手を振ってセイバーに応えるミーナさん。でも、ちょっと残念そうだ。ミーナさんはセイバーの正体を知らないのだが、やっぱり魔剣鍛冶としてはセイバーのような言わば”剣精”に、自分の夢を託した剣を持ってもらいたかったのだろう。
「ヴィルヘルミナそういう意味ではありません。あれは良い剣です」
そんな彼女をセイバーが宥める。未だ不安定な寂しさは残っているが、それは剣の騎士たるセイバーの、王者たるセイバーの風格を漂わせる言葉だ。
「魔剣としての格などは関係なく、間違いなくあれは王者の剣です。王者の剣を鍛つのにふさわしい者が、王者に託すために鍛えた剣です。それは間違いない。
……ただ……今の私にはまだ引き抜く決意が無いだけだ……」
最後の付け足しだけはやけに重く響いた。人に聞かせる為でなく自分に言い聞かせるような響きだ。
鍛冶場が、なにか侵しようも無い重い空気に包まれた。その鍛冶場の中央で、セイバーは王者ではなく罪人の様に俯いている。
「しょうがないわね」
と、遠坂が腕組みしながら溜息をついた。ぱんっと手を叩くと、仕切りなおすように明るく言う。
「じゃ、セイバーさっさと二本目選んじゃいなさいよ」
俺たちは、気を取り直すように鍜治場を出た。最後まで残ったセイバーは、もう一度だけ『王様の剣』を悲しげに一瞥すると俺たちに続いた。
結局セイバーが選んだ二本目は、一本目とほぼ同じバスタードソードと呼ばれる形の剣だった。タフで使い勝手の良い汎用性の高いタイプだ。魔剣としての性格も同じだ、程よく魔力が付加され程よく魔力が通る。
「じゃあこっちの代金はあれね」
「ええ、“セイバー様ご用達”の看板一枚で」
いきなりさっきまでの重苦しい雰囲気が吹っ飛んだ。
にこにこしながら越後屋と悪代官を演じる二人に、俺もセイバーも一瞬あっけに取られてしまう。
「なにか……納得できないものがあります」
セイバー様は剥れていらっしゃる。
「だってしょうがないじゃない……お金ないし……」
「誰が原因ですか誰が!!」
日ごろのの鬱屈がとうとう爆発したセイバーさん。
ああ、セイバー。俺が言いたい事を良くぞ言ってくれた。
「だいたい凛は衝動買いが多すぎるのです! 日本に居た頃からお金お金と言っていたので、凛の経済観念は発達しているものだとばかり思っていたのですが……なんなんですか! 蓋を開けてみれば結局お金遣いが荒いだけではありませんか!! 家計を預かる身にもなっていただきたい!!」
がぁーっとばかりに攻め立てるセイバー財務卿。うん、俺もそう思うぞ、頑張れセイバー。
「どうして私の周りの魔術師と言うのはこういう方達ばかりなんです! 昔、私の下に居た魔術師も口ではえらそうな事を言いながら、お酒に弱いお金に弱い女に弱いとにかく誘惑に弱い! ……どうしてあなた方は、こうも問題ばかり持ち込むのですか!!」
セイバー愚痴入ってるぞ。それと俺は除外してほしいぞ。怖いから口にはしないけど……
さしもの遠坂もたじたじと引き下がる。こら! そのわたし悪くないもんって目はなんだ! 反省しろ!
ミーナさんもぽかんとした顔で見ている。そりゃそうだろう、形はどうあれ使い魔に罵声浴びる魔術師ってのはめったに居ないぞ。
と、その時だ。
―――― 一瞬世界が止まった―――
ふわりと銀色の髪が靡く。赤い帽子が、血飛沫を巻き散らすかのようにズタズタになって飛び散る。
遅れて工房中に響く重低音。
帽子を浮き飛ばされ、編みこんだ三つ編を解かれ、銀色の髪を靡かせたミーナさんの頭の真上を、壁から生えた巨大な拳が通過した。
俺は悪いと思いながらも、そこに立っているのがミーナさんで良かったと思った。ミーナさんより背の高い遠坂がそこに立っていたら……
真っ先に動いたのはやはりセイバーだった。遠坂を抱え反対側の壁に飛びのく。続いて俺。ミーナさんを抱えて鍜治場の方向へ飛ぶ。こら! 遠坂、今はそんなこと言ってる場合じゃないぞ!
俺はミーナさんを庇いながら腕の生えた壁に向かって身構えた。セイバーも身構えている。一瞬、宝具を出そうとしたのを遠坂に止められ、先ほど手に入れた剣に持ち替えた。
そんな俺たちの目の前で、壁から生えた腕は一旦引っ込み、続いて壁全体を突き破って本体が姿を現した。
巨躯だった
身の丈は三メートルを超え、全身が鈍色にくすんだ巨人
鋼の体に溶岩の血潮。
小刻みに震えながら玄鉄の城が屹立している。
「嘘……ここの壁って半端じゃないのよ……」
遠坂が叫ぶ。それはそうだろう、魔術師の工房の壁がそう簡単に吹き飛ばされては敵わない。だが驚くのはそこじゃないと思うぞ。
いきなりセイバーが動いた。
電光の一閃。人には捉えきれない稲妻の軌跡が走りセイバーが巨人に切り込む。
「ッ! ―――」
軽く舌打ちしてセイバーが身を引く。直後、早くは無いが桁違いの重量がセイバーの居た空間を凪ぐ。
一瞬あっけに取られた。あのセイバーが格の低い剣とはいえ必殺の一撃を放ったのだ。
なのに……弾かれた。いやかなり削れてはいる。だが装甲の分厚さに比べそれは余りに些細な傷だった。
「なんなのよ!あの機像
遠坂が怒りを含んだ声で驚愕する。当然だ、たかが機像
「装甲機像
おれはそいつの事を思い出した。この工房の場所を教えてくれた男の連れていた機像だ。
「士郎! 知ってるの?」
「おう、ここに案内してくれたヤツが連れてたぞ。なんでもクレイが芯でシグマクリップが二chだとか言ってた」
「だぁ――っ! 祖材工学の講義でなに聞いてたの! ゼーダークルップ魔鋼でしょうが! で、なに? 二ch? ……ッ! 二ich!? セイバー! 一撃では無理、ゲシゲシ削っちゃいなさい!」
遠坂がちゃんと添削してくれた。優等生はこういう時ありがたい。
「クレイをベースに二ichの魔装甲……なんてでたらめな構整
ミーナさんが静かに技術者の義憤を爆発させている。暴走か……道理でさっきは感じなかった、狂ったような殺気がばしばし響いてくるわけだ。俺はあいつの構造を解せ……!
……きする前に気がついた。拘束するためだろう機像の腰には鎖が巻きつけられている。だが役には立っていない、なにせ機像がつなぎとめられているのは、
ずたぼろになった、ただの人間だったからだ。
「セイバー頼む!」
俺はそれだけ言うとそいつに向かって飛び込んでいた。
途中、壁と共に吹き飛ばされていた剣を一振り握る。
遠坂はものすごい顔で俺を睨んだが、さすがはセイバー。俺の意図を瞬時に理解してくれたか、素早く横に流れ俺に向かって繰り出された鉄拳を弾いてくれた。
俺はその隙に鎖を断ち切りずたぼろになった人を抱えあげた。新鍛の魔剣とはいえ、魔剣は魔剣だ。俺程度の技量でも鎖くらいは断ち切れる。俺は機像の攻撃圏内から離れながら抱え上げた人物を確認する。よし息はまだあるぞ。うん、やっぱりそうだ、さっき道案内してくれた男だ。
「凛! 剣が持ちません! 宝具を!」
俺は素早く持っていた剣をセイバーに渡す。魔力量の関係で出来るだけ宝具は使わせたくない。
「駄目よ、手はあるわ。士郎、セイバー、準備してくる。二分ほど時間を稼いでちょうだい!」
遠坂も同意見らしい。ミーナさんと合流してなにやら相談していたが、そう言い放つとカウンターのほうへ走っていった。
「セイバー、こいつ治療したら援護に入るぞ」
「では剣を、この剣では二・三合が限界です」
機像の周囲を駆け回ることで相手の動きを封じながら、セイバーが機像を削る。
俺は部屋の隅まで男を運び込むと、さっきのカードからハートを根こそぎ引き抜いて治癒の呪を発動させた。
「―――同調開始
よかった……利いてくれた。呼吸が落ち着いていく。
俺はほっとしつつ遠坂とミーナさんに感謝した。こいつがなければ助けられなかったろう。
「シロウ! 剣を!」
「おう!」
俺は転がっている剣を掬い上げるとセイバーに放った。
セイバーはなまくらになった剣を捨てる代わりに機像に突き立て、素早く俺の放った剣に持ち替える。
「お待たせ! セイバー! そいつ釘付けにしといて」
遠坂が何か小さな袋を持って帰ってきた。その脇を素早い動作でミーナさんがすり抜ける……って危ない!
一瞬、援護に入ろうとしたがそれは杞憂だった。思いのほか軽い身のこなしで、流れるような銀髪を糸を引くように靡かせながら、要所要所で床に何か書いては石を置いていく。なるほど結界で固めるんだな。
遠坂を見てその予想は確信に変わる。にたりと笑い小袋から取り出した宝石を全部使っちゃうわよ、とばかりにざらりと鷲掴みにし詠唱を開始している。
その間も、セイバーは巧みな機動と打ち込みで機像を釘付けにする。機像の拳は重量感こそあるがセイバーの速度に全く対応できていない。俺の役目はセイバーへの剣の補充だ。セイバーはなまくらになった剣をそのまま機像に突き立てるので、機像はどんどん針鼠じみてくる。ってのにコイツ全く動きが止まらない。
俺はセイバーの邪魔にならないように駆けずり回り、落ちている剣を拾い集めた。
いや、唯一の男としてはもう少しアグレッシブな役割を担いたいところなんだが、現状これで上手く行っているので我慢する。流石に学院内で「固有結界」や宝具の投影はまずい、まだセイバーの宝具使用のほうがましだろう。
「凛さん!」
魔法陣の構成を終わったのかミーナさんが遠坂に最後の小石を放る。それを受け取った遠坂は、そのままその石と宝石を共に握りしめ詠唱の絞めに入った。
「――――― Das Schliessn.
「セイバー! 下がれ!」
詠唱終了と俺の叫びはほぼ同時。セイバーは手持ちの一剣を突き立てると、そのまま機像の胴を蹴り上げて後に飛び退いた。
直後、一瞬だけ工房全体の空気が凍った。続いて見えない閃光が陣を組んだ石から垂直に伸び、凍りついた空気ごと機像に吸い込まれるように消えていった。
「固有時結界か、大技だな」
俺は心底あきれたというか感嘆した。これだけデカくて強力な魔具をよくもあんな即席陣で仕留めたものだ。
「へへへ、あれだけ魔具や宝石使えばね。しかし、まぁ厄介なヤツだったわね、こんなになってもまだ動くなんて」
遠坂は自慢げに胸を張ると、憎々しげに針鼠になって固まった機像を見上げた。
「それはこれだけ無茶をしてますからね。スペックだけ上がれば良いっていう構整です。全く……半可通というのが一番たちが悪いですね」
ミーナさんが遠坂に解説した。この人も”創る人”だけあって、こういうバランスの崩れた造形は気に入らないらしい。
「しかし大盤振舞いだったな」
俺はそこんとこどうよ? と遠坂に視線で問う。
「ちゃんとミーナに聞いたわよ、全部つかっちゃって良いかって」
文句ある、と遠坂さん。やっぱり人のものだと吝嗇でなくなるらしい。
「事態が事態ですし……」
口調の割には晴れやかなミーナさん。
「どっちにせよ加害者に全額補償請求しますから、問題ありません」
とにっこり笑う。割り切りの早い人だ。
「シロウ、怪我人は?」
ああ、そうだった。
「一応応急しといた。ミーナさんのおかげだよ。カードが利いた」
俺は部屋の隅で伸びているボロボロの男を指差した。
「なんだ『真鍮
「真鍮?」
「そ、金持ちでさ、高い魔具やら機材やら見せびらかすんだけど実力は士郎並のへっぽこ。だから『偽金ぴか
うわぁ酷ぇあだ名だ……て俺はへっぽこの代名詞ですか?
「ミーナ、安心しなさい。こいつ金だけは持ってるからふんだくれるわよ」
「そうですね、新しい炉が欲しかったんです」
確か鍜治場には被害が及んでいませんが?
「それはともかく……」
ミーナさんは俺たちに向かってくるりと振り返った
「有難うございます。私が一人きりだったら止められませんでした。ご苦労様です」
にっこり笑って俺たちに一礼した。実に良い笑顔だ。
へぇ……この人よくみると結構美人さんなんだな。
さっきまでの印象は、ちょととぼけた優しい人ってだけだったんだが、戦闘中の身のこなしは流石は魔術戦闘の本家といった優雅さだった。こうやって戦場跡で、腰に手を当てて胸を張り髪を靡かせている姿も様になっている。
……桜なみだし……
「衛宮くん、貴方いったい何処を見ているのかしら?」
そんな事を考えていたら、いつの間にか遠坂さんが装甲機像をバックに、それ以上の威圧感をかもし出しつつ爽やかに微笑まれた。
いや、なんだ、その……形と大きさを兼ね備えた胸と言うのは、やはり男の浪漫であってだな……
て、セイバー! その目はなんだその目は! その「またか」って目はなんなんですか!?
ミーナさんも笑ってないでなんか言ってやってください!
遠坂! 分かった、分かったからそう爽やかに微笑むな! お前はそれが一番怖い!
こら! そこの機像! 遠坂と一緒に迫ってくるな!
……え?
次の瞬間、俺は遠坂を脇に突き飛ばしていた。
そしてその代わりに、俺は再び動き出した機像に殴り飛ばされた。
表題の肝、おうさまのけん登場編。
最初は此処で抜かせてしまうつもりだったのですが、セイバールートを考えると決断できていないほうが自然と思いプロットを変更しました。
じつは「王様の剣」の映画そのものは見たはずですが、すっかり忘れています。作者のアーサー王のイメージは映画「エクスカリバー」(1981年)の物です。
読んでもらえれば分かる通り、この連作でのセイバーのイメージは「騎士」であるより「王」。
よって炊事以外の管理・事務処理能力高し。けっこう家内労働万能の三人です。
by dain
2004/3/6初稿